彼女はあの子に容赦がない



「弱いものいじめをするな!」
「俺は弱いものじゃない!」

いじめっ子5人を巻き込んでの大乱闘の末、無二の親友になったタカとソラ…のちの羽瀬川小鷹と三日月夜空である。

二人はとある学校の敷地に潜りこんでいた。
「オオムラサキだって、タカ?」
「本当さ。クラスのやつの兄キがここに通っていて、見たって言うんだよ。」

手の行き届いた花壇や涼しげな林をぬけ、学校の実習田にたどり着いたとき、それは二人の前を通りすぎた。

「オオムラサキ!待って!」
「ソラ!足もと!」

ベチャッと嫌な音がして、次の瞬間、ソラは泥田のうえに寝そべっていた…

ゆっくり起きあがったソラは、Tシャツを真っ黒に染めて、顔だけでなく赤い野球帽にまで、泥ハネが来ていた。

「タカ…足が抜けないよ…」

立ちあがろうとしてはまり、ひざ上まで泥につかって動けなくなったようだ。

「ちょっと?私のうちの田んぼを、なんで荒らしているの?」

うろたえるタカのそばに、いつの間にか、きれいなフリフリのドレスを着た子どもが立っていた。

「初瀬、さっさとどけてちょうだい!」
「はっ、お嬢様」

初瀬と呼ばれた作業服の男は、長靴を脱いで裾をまくり、あっという間にソラを助け上げた。

「井戸があります。そこで泥を落としましょう。もう大丈夫。」

半ベソをかいて去っていくソラの姿に、タカはなぜか胸が熱くなる思いがした。

「私、柏崎星奈。あなた、お名前は?」
「羽瀬川…小鷹」
「その頭、気にいったわ。お茶でもどうかしら?」

そして、およそ十年後。
「お前は学園じゅうの笑いものだな、肉!」
「よ、夜空のバカ〜!」

星奈が去ったあとから、小鷹が夜空に尋ねた。
「なぁ、あいつがお前になんかしたか?」
「ああ、昔な。肉が忘れても、私は死ぬまで覚えていてやる。」

(注)このショートストーリーは、ライトノベル「僕は友達が少ない」のパロディです。

(2013年8月18日掲載)


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