みな泥だらけ



夏奈は水着も肌も区別できないほど泥だらけになって、あおむけで寝そべりながらつぶやいた。
「わたしだけ、ちっとも面白くないよ。」

そもそものきっかけは、おじさんの車が道をまちがえて、有明海に来てしまったことだ。
車にのる前に水着を着こんでいた夏奈、春香、冬馬、藤岡、そしてマコちゃんが海辺にむかった。
目の前に広がるのは灰色の泥の干潟。白い砂浜もなく、うちよせる青い波しぶきもない。
「ようし、こうなったら泥んこクイズだぁ!」
なにがこうなったらだかわからない一行をよそに、夏奈の一声でイベントがはじまった。

Tシャツ姿の春香が出題者として、泥の干潟に踏み込む。
白いTシャツのすそから、ビキニがちらりと見えている。
借り物のゴム足袋の足先から踏み込むと、吸い込まれるようにすねまでもぐった。
「ちょっとすごいわね、ここ。」
うろたえながらぬかるみを歩く女子高校生、春香。

岸壁の石段に回答者が一列に並ぶ。ここから水面に飛び込んで、顔を泥につけてから回答するのだ。
「じゃあ、一問目いくね。ここ有明海でとれる魚はなんでしょう?」
子供たちがいっせいに泥にとびこむ。
「ハイ!ムツゴロウです!」
元気よく答えたのは、フリルの水着を夏奈に着せられた男子小学生、マコちゃんだった。
きれいにまとめられた髪から足まで泥におおわれ、まるで粘土でできた人形のように見えた。
それを見た夏奈がひとこと。
「もうお前、男でも女でも、どっちでもいいや。」

「次の問題、お願いします!」
冬馬の競争心に火がついたようだ。短く刈り込んだ黒髪、ややつり目な女子小学生。
肩ひもが細く背で交差するタイプの競泳水着を着込んでいる。
「次、10ひく5かける2はいくつ?」
皆ふたたび泥水に飛びこんだ。泥がやわらかくなって、さっきよりしぶきがあがる。 「じゅう!」
立ち上がり、元気よく答えた夏奈を皆がわらった。
「かけ算をさきに処理するから、答えはゼロだよ。」
同じ中学に通う藤岡がぬかるみのなかから起きあがり、やさしく夏奈に話した。

「なんだよー、もういいっ!」
そういった瞬間、夏奈が皆の視界から消えた。
ありえないかもしれないが、干潟の表面にクラゲが残っていて、その触手にしびれてあおむけに倒れたのだ。
夏奈は泥におおわれていた全身が保護色となり、夏の日差しが反射して、急にいなくなったように見えた。

「夏奈はどこ?」
あせる春香に、おじさんと岸壁にいた千秋が指摘した。
「春香姉さま、足元です。」
泥の表面にポッカリ穴があいて、ひとり言がきこえてきた。
「わたしだけ、ちっとも面白くないよ。」

藤岡に肩をかかえられて干潟から上がってきた夏奈に、千秋は心配したそぶりを隠して言い放った。
「・・・このバカ野郎。」

(注)このショートストーリーは、マンガ「みなみけ」のパロディです。

(2014年6月7日掲載)


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