サヨナラサヨナラ
「だーれだっ!」
「きゃっ、あ、甘い。」
マツ姉の後ろから目隠しをしたボク。その手の平にはシュークリームを仕込んでいた。
「顔面シュークリームなんて、今までちっとも知らなかったよ。お久しぶり、マツ姉。」
カスタードクリームで顔を汚したマツ姉は少し不機嫌そうで、やがてその目に涙がにじんできた。
その足元を見ると、コー○ーコー○ーの紙箱から、シュークリームがこぼれ落ちていた。
「あなたが年度初めで疲れてるだろうから、せっかく差し入れを用意したのに・・・。」
「そんなつもりじゃなかったんだよ。」
「許さない!半年以上放っておいて、許さないから!」
言い終わるやいなや、シュークリームの生地が広がり、見る見るうちに地面を覆いつくした。
ボクは巨大なシュークリームの上に立っているようなものだった。
「マツ姉、ちょ、待って。」
「もういいわ。あなたは用無しよ。」
マツ姉が指を鳴らすと、ボクは生クリームの海に沈みはじめた。
全身にまとわりつくバニラエッセンスの香り。
生クリームのなかでボクは棒立ちとなり、ズブズブと沈んでいくのを待つしかなかった。
「情けない。どこで間違えたんだろう。」
「あなたのことなんか誰も見てないから。」
マツ姉がフワリと浮き上がり、ボクの頭の上に立った。
その重みで沈み方が早くなったようだ。
すでに胸元まで沈みこみ、腕を抜け出すこともできない。
「サヨナラ。サヨナラ。」
これがボクの見たかった風景なのだろうか。
口も鼻の穴もふさがれ、目の前が真っ白になっていく・・・。
いつまでもシュークリームの生地の上に浮かんでいるマツ姉。
無性にイライラした表情をして、足元を見つめ続けていた。
(注)このショートストーリーは、Kick the can crewの一曲、sayonara sayonaraをモチーフにしました。
(2015年5月2日掲載)
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