「彼女の事情」G



「もういいよ。キミとは違うことが分かった。」

顧問がクミのことをあきらめても、そのまま逃すつもりはなかった。
わたし、山田初美は、初物の美しさを味わう女だから。

化学室で目の当たりにした泥んこの彼女には、下校途中で高校生クイズの体験話を聞かされただけでは納得できない何かを感じた。
何より細身でありながら、脂肪感のある、柔らかそうな肌。ソフトボールで引き締められた肩や足まわり。
ほかの女子はあまりしないショートカット。・・・落とすと決めた。

彼女の家に上がると、まず気づいたのは、家族の匂いがないこと。保護者代わりのおじさんは仕事だと言われた。
そして粘土のプール。色、触感、いずれも親しめない。違和感。クミはこの水たまりのなかで、何を思うのだろう。

「ここに入って、ボクを汚さないと、気がすまないときがあるの。生理のときとか、痴漢にあったときとか、ね?」

・・・自分を責めているということか。でも、生理のときには大事なところを不潔にしないほうがいいよ。

「顧問に気に入られてから、部員たちに受け入れられるまでがね。」
「で、どうしたの?」

よし、今だ。
クミはティーカップを持ったままだけど、強引に引き寄せて、その手にキスで刻印してやった。
5秒、10秒。わたしが手を離すと、クミは落ちつこうとして紅茶を飲み、そして、むせた。

「ここは、うちのことを忘れられるわ。また来る。そして、勉強を見てあげるから。」

次に来たとき、わたしは洗濯前にクミをユニフォーム姿にして、床の上で持てあそんだ。
スライディングパンツ越しに香りを楽しむ。前ボタンを外して、胸のふくらみをまさぐる。
ようやく唇を重ねようとしたとき、顔を背けてしまった。

「ごめんね?昔の、嫌なこと思い出すから。」

ここでいったん休憩。指と指を絡ませながら、しばらく天井を見上げていた。

繰り返し家を訪ねては体を重ね、寝室に入れてもらい、お泊りもした。
ビニールプールには、外が暖かくなっても、お湯を入れられることがなくなった。

「初美のおかげで、偏差値10も上がったよ!これなら、狙っていた女子大も合格圏内だって!」

おじさんの用意してくれたトーストを頬ばりながら、わたしの生き方が間違っていないことを確信した。


(注)この文章は、オリジナルです。


(2019年6月24日掲載)


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